今夏甲子園出場、米子東の「頭を使って野球に取り組む」姿勢

今夏甲子園出場、米子東の「頭を使って野球に取り組む」姿勢

11月30日、12月1日、法政大学多摩キャンパスで行われた「日本野球科学研究会第7回大会」では、昨年に続き米子東高校がポスター発表を行った。

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昨年の発表は2テーマだったが、今回は3テーマ。今夏の甲子園に出場した選手も含め、2年生部員が硬式野球部監督でもある紙本庸由教諭の指導のもと、研究発表を行い、来場者への説明も行った。まさに「文武両道」の取り組みだった。その3つのテーマのサマリーを紹介する。
■テーマ 動作の習得において動画を用いた練習法は効果的なのか
研究発表:遠藤想大、又野菜月、小谷凌也

「スポーツの動作習得を行う際に、言語のみで始動する場合と、動画を用いて指導する場合で、習得の度合いに差があるか」

【方法】
ジャグリング、バドミントンのシャトル拾い、リフティングの3つの種目について
米子東高校の1~2年生を対象に
A群 目標とする動作のコツを口頭で説明
B群 目標とする動作の手本となる動画を見せながらコツを説明
C群 B群の指導に加え練習中の動作を撮影してフィードバック
の3つのグループで記録達成の「伸び率」についてデータを取った。

【まとめ】
今回のデータでは3群共に有意差はなかった。しかしC群は「伸び率」の平均値は3種目とも一番高く、自分の動画をフィードバックすることが効果的と言えた。サンプル数が少ないため断言はできないが、練習で自分の動きを動画で確認することで、練習の効果は高まることがわかった。
■テーマ 野球の動作においてどのオノマトペが有効か
研究発表:平山悠斗、長尾駿弥、岩本勇気、徳丸萌恵

「オノマトペ(擬音語)を使ったスポーツ指導は昔からありパフォーマンスの向上に効果的だということがわかっている。では、どんなオノマトペを用いればパフォーマンスをより向上させられるのか」

【方法】
硬式野球部27名、軟式野球部8名に練習の打つ、走る、投げる、の動作でどんなオノマトペを用いたかを調査し、これを論文をもとにパワー、スピード、リズム、タイミングの4種類に分類。
10メートル走とスイングスピードの2つの動作で異なるオノマトペを口に出してその差を調べた。

・10メートル走 40人
パワー:フッ・ダッ・ダッ・ダン
スピード:タン・スー・ビュン・サッ・シュッ
リズム:トン・タ・タンタン

・スイングスピード 32人
パワー:パン・ズドン・グッ・パチン・ドン・パーン
スピード:シュッ・スパン・スパッ・ブン・ビュン
タイミング:スーカッ・スーポン・グ―パン・フートン

【まとめ】
4種類のオノマトペのうち有意差のあるものは見られなかった。どのオノマトペが有効かは個人によって異なる。全員が共通のオノマトペを用いるのではなく自分にとって最適なオノマトペを見つけることがパフォーマンスの向上につながる。


■高校野球に流れは存在するのか
研究発表:岡本大翔、松田凌、山内陽太郎、土岐尚史

「野球でよく使われる『流れ』は本当に存在するのか。存在するとしたら何によって起こるのか。またそれに対してどのような対策が立てられるのかを考察」

【方法】
米子東高校硬式野球部に現存する約700試合の公式戦のデータの中で終盤(7、8、9回)の先頭打者が出塁した無死一塁のケースを調査対象とし、その出塁方法(ヒット、四死球、エラー)ごとにその回の得点結果に差があるのかを調査した。

・ヒット:得点確率0.477952 得点期待値0.948791
・四死球:得点確率0.518072 得点期待値1.106024
・エラー:得点確率0.617143 得点期待値1.285714

【まとめ】
ヒットとエラー、四死球とエラーの間には有意の差が認められたが、ヒットと四死球の間には認められなかった。このことにより同じ先頭打者の出離によってできた無死一塁でも出塁方法によってその後の展開に差が出る「流れ」が確認された。守備側の精神状態や思考がその後の得点に大きく影響を与えているのではないか、野球には「流れ」が存在し、その正体は「心の動き」ではないかと言う結論に至った。

ポスター発表は「1テーマ」が原則だったが、いずれも選手ならではの発想が光るテーマだった。
紙本庸由監督は「科学的知見」に基づく指導でチームを23年ぶりに甲子園に導いたが、その指導の中で選手たちも「野球を科学的に見つめる」態度を身に着けてきた。

米子東高校は鳥取県下有数の進学校だが単に「野球も勉強もできる」という文武両道ではなく、「頭を使って野球に取り組む」姿勢が養われたのが素晴らしい。
来場者からも感心する声が上がっていた。

(取材・写真:濱岡章文) BASEBALL KING