<Ball STORY>3桁背番号からの再起 「失うものない」阪神元ドラ1横山の逆襲

引用元:毎日新聞
<Ball STORY>3桁背番号からの再起 「失うものない」阪神元ドラ1横山の逆襲

 「もっとアピールできたはず、もっと……」。2月から沖縄県宜野座村で始まった阪神春季キャンプの第1クール最終日(5日)。2015年ドラフト1位で阪神に入団した時の15から115とはるかに重たくなった番号を背負う左腕は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

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 18年オフに育成選手契約を結び、左肩の故障から再起を目指している横山雄哉投手(25)だ。育成選手が春季キャンプで1軍スタートを切るのは阪神では初めてだが、当然、本人にとってそれは意味がない。「少しでも早く支配下登録に」と、背水の陣で臨んでいる。

 「アピールを」と繰り返す横山の気持ちが表れたのは、キャンプ4日目のシート打撃登板だ。最初の打者に四球を与え、続く打者には鋭い三塁ライナー。芳しくない投球内容のまま迎えた3人目の打者は大山悠輔内野手(25)だ。初球、詰まらせた打球は一塁ベンチ前のファウルゾーンへの小フライとなり、横山はマウンドから猛然と駆け降りた。結局、間に合わず、捕球できなかったが、「アピールしたい」という強い気持ちが伝わるプレー。シート打撃でそこまでする選手はまずいない。

 「今日はよくなかった。もっと状態を上げないと」。最速140キロほどで打者5人と対戦し、1安打、1四球の内容だった横山は反省を口にした。しかし、矢野燿大監督は「ファームの頃に比べると、不安も減って、打者と勝負できるところまで来ている」と評価した。

 技術のレベルアップにも「(他の選手から)どんどん吸収していきたい」と意欲的だ。早速、西勇輝投手(29)の助言を受け、スライダーを直球に近い感覚で投げるように変えた。すると、120キロ台だった球速が130キロ台に。「高速スライダー」の習得に成功した。

 また、投球する際、しっかり腕を振って球を離せるようにするため、練習でひと工夫。福原忍投手コーチの指導を受けながら、バドミントンのラケットでシャトルをたたきつけるように打ち、思い切り腕を振る意識を体に覚え込ませている。臨時コーチを務める元中日の山本昌氏には肘の上げ方など左腕の動きについて細かくアドバイスしてもらった。山本氏は「アドバイスを実践し、投げる球に力がある。チェンジアップもいい。気持ちのある子なんで、2桁(背番号)に早く戻れるように頑張ってほしい」と言う。

 山形中央高時代、東北で左の剛腕ということから、横山は「菊池雄星2世」と呼ばれた。高校を卒業後、社会人の新日鉄住金鹿島に進み、14年の都市対抗野球大会で5者連続三振を奪うなど150キロ近い速球と切れ味の鋭いスライダーで注目を集め、阪神入り。しかし、左肩の故障で結果を残せず、背番号15を今年のドラフト1位新人の西純矢(岡山・創志学園高)に譲った。

 今季の目標を聞かれた横山の答えは「3勝」だった。かなり低い目標にも見えるが、横山が入団から5年間で挙げた勝ち星は3勝(2敗)。18年8月に左肩を手術して以降、1軍マウンドが遠い横山からすれば現実的な数字となる。「失うものはなにもない」と首脳陣に提出したリポートに、そう書き記した左腕。6年目の今季、逆襲が始まる。【田中将隆】

 ◇よこやま・ゆうや

 1994年2月21日生まれ。山形県中山町出身。身長183センチ、体重84キロ。左投げ、左打ち。山形中央高から新日鉄住金鹿島を経て阪神入団。先発として期待され、16年にプロ初勝利を挙げたが、左肩を痛め、18年オフに育成選手契約を結んだ。20年春季キャンプで「1日キャプテン」に選ばれた際は、帽子に手書きの「C」マークを張り、周囲の笑いを誘った。