鹿島小泉社長、テクノロジー新時代更なる成長目指す

引用元:日刊スポーツ
鹿島小泉社長、テクノロジー新時代更なる成長目指す

28年目のJリーグ開幕を前に、メルカリで社長を務め短期間で成功へと導いた実績を持つ鹿島アントラーズの小泉文明社長(39)に、クラブ改革の現状と今後のJリーグについて聞いた。

【写真】スライディングをかわして前進する鹿島DF内田

巨額を投じてスターを獲得しチーム力を上げたヴィッセル神戸や、シティー・フットボール・グループ(CFG)の世界的ネットワークの下で新たなスタイルを確立させた横浜F・マリノスなど、独自色を打ち出して結果を残すクラブも出てきた。昨年夏にメルカリを親会社に迎えた鹿島も、大きく様相を変えつつある。【取材・構成=杉山理紗】

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◆メルカリ体制半年、進むシステム化とテクノロジーの導入

J屈指の強さと伝統を誇る鹿島の「ネット企業化」が顕著だ。業務のシステム化が進んだことや、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、この週末は職員の在宅勤務をテストする。

メルカリが親会社となって以降、約半年の土台作りを終えて迎える20年。鹿嶋市やメルカリと包括連携協定を結んで地域の課題解決に挑んだり、周辺にさまざまなコンテンツを設ける「スタジアムのお祭り化」の促進、また生体認証システムの導入で“スマホなし”のスタジアムを目指すなど、最新技術を還元していく。

テクノロジーによって、収益構造も多様化する。中継1つとっても、大容量次世代通信システム「5G」のサービス開始と同時に、これまでにはなかった複数目線での映像を提供することも可能になる。“推し”の選手だけを追うカメラや、審判目線で試合を楽しめるモードなど、より感動値を大きくすることができるという。「今までの延長上に、テクノロジーが加わるイメージ」と小泉氏。可能性は無限大だ。

◆テクノロジー新時代へ…多様化するエンタメ、共存への課題も

テクノロジーとサッカーの融合。期待が高まる一方、会場を訪れるJリーグの観客の平均年齢は、1年前から0・9歳上がったというデータがある。男女比を見ると、女性は4割に満たない。小泉社長は警鐘を鳴らす。

小泉氏 ラグビーはW杯をきっかけに20代、30代の女性が見始めて、チケットを取れない状況。20代、30代の女性をどう引きつけるのか、本気で考えないと。

女性や都内在住ファンの多い鹿島は地元を大事にしつつも、28日のホーム神戸戦では、東京・渋谷でのパブリックビューイング実施を予定している。新型コロナウイルスの影響もあり、開催は慎重に見極めるとみられるが、新たな試みだ。他クラブのホームタウン、活動区域でイベント許可を得るのは容易ではないが、小泉氏はこの点にも疑問を抱く。

小泉氏 初めての友達を呼ぶ場合、仕事終わりに渋谷でなら誘いやすい。東京を基盤にしているチームへのケアは必要だけど、これだけ人が集まっている23区内のマーケティング活動には、少し課題があると感じている。東京の人も、半分くらいは故郷がある。地域に根ざすJリーグの理念は大賛成だけど、リーグとしても、イニエスタがいるのに(都内で)アピールできないのは、損失だと思う。

リーグ発展には、クラブ間の相互理解も必要。加えて小泉氏は、エンターテインメントが多様化した今、他とファンを奪い合うよりも「コラボレーションすればいい」と話す。これは鹿島が目指す“スタジアムのお祭り化”に通ずる。

小泉氏 スタジアムの外にバドミントンコートがあってもいいし、3on3の(バスケットボール)コートがあってもいい。やるのは各自好きなスポーツで、見るのは家族でサッカー。各個人で興味関心が違うので、いろんなコンテンツを用意して、いろんな人が引っかかるポイントをどんどん置くことも大事。

競争の世界にも共存を-。小泉氏が見つめる先にあるのは、Jリーグ、引いてはエンターテインメントそのものの発展だ。異業種から送り込まれる新たな風も、Jリーグをさらに成長させていくはずだ。

◆小泉文明(こいずみ・ふみあき)1980年(昭55)9月26日生まれ、山梨県出身。早稲田大学商学部を卒業後、03年に大和証券SMBC(現・大和証券)入社。ミクシィやDeNAなどネット企業の新規上場を担当。06年にミクシィに入社し、08年には取締役に就任。12年に退社後、スタートアップ支援を経て13年12月にメルカリ入社。14年3月に取締役に、17年4月には取締役社長兼COOに就任した。19年8月に鹿島の代表取締役社長に就任し、9月にはメルカリの社長を退任、同会長となった。