「打倒中国」プランに狂い 卓球ニッポンに新型コロナの影

引用元:産経新聞
「打倒中国」プランに狂い 卓球ニッポンに新型コロナの影

 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が7月24日開幕予定の東京五輪に影を落とす中、自国開催の祭典に向けた代表選手の強化にも影響が広がっている。日本代表がまだ決まっていない競技はもちろん、今年1月、早々に代表を選び終えた卓球も例外ではない。本番への強化の一環としていた国際大会の中止や延期が相次ぎ、念願の五輪での金メダル獲得に向けて描いた青写真に狂いが生じている。(岡野祐己)

【表】主な出かけて「いい場所」「悪い場所」

 ■遠ざかる実戦

 「びっくりしているが、出られる試合に出て、しっかり練習したい」「安全を一番に考えたら、正しい方法かなと思う」。2月25日、ワールドツアーのハンガリー・オープンを終えて羽田空港に帰国し、マスク姿で取材に応じた卓球の男女のエースは戸惑いを隠せなかった。

 ともに今季ツアー初優勝を果たした張本智和(16)=木下グループ=と伊藤美誠(19)=スターツ=を待っていたのは、3月22~29日に韓国・釜山で開催予定だった世界選手権団体戦を、国際卓球連盟(ITTF)が6月に延期したという知らせだった。世界選手権は、五輪を前に各国の強豪の力を測る前哨戦と位置づけられていた。

 ITTFはそれだけでなく、3月13日には大会だけでなく強化や育成を含めた全活動を4月末まで暫定的に停止する方針を発表。4月21~26日に北九州市で開催予定だったワールドツアーの荻村杯ジャパン・オープンの中止が決まったほか、世界選手権団体戦は年末に再延期する可能性も生じている。

 日本男子の倉嶋洋介監督(43)は「もし大会がなくなっていくとすると、調整の難しさはあると思う。実戦感覚(を保つために)は何か方法を出したい」と頭を痛める。

 ■選考ままならぬ競技も

 もちろん、代表選考の過程にある競技への影響は深刻だ。

 国際オリンピック委員会(IOC)によると、約1万1千人の東京五輪出場枠のうち、決定済みなのは57%。ドイツのインタビュー番組に出演したIOCのバッハ会長は「スポーツ大会の中止や延期が相次ぎ、予選システムが危機的な状況にある」と危機感をあらわにした。

 五輪代表は、国際大会で獲得したポイントで算出する世界ランキングを基に決まる競技が少なくない。4月28日付のランキングで代表が決まるバドミントンは3月16日から4月12日までのワールドツアー大会の中断が決まり、逆転を目指す下位の選手にとって状況は厳しくなった。女子の渋野日向子(21)や畑岡奈紗(21)、男子の松山英樹(28)らが出場を目指すゴルフも、同様に6月下旬のランキングが基準となるが、大会中止が相次いでいる。

 競泳は4月2日開幕予定の日本選手権で代表の多くを選考する予定となっている。ところが大橋悠依(24)=イトマン東進=や萩野公介(25)=ブリヂストン=らが高地トレーニングを積んでいたスペインで、爆発的に感染者が増加。3月14日には非常事態が宣言された。このため移動制限で日本選手権までに帰国できなくなる恐れが生じ、急遽合宿を打ち切って16日に帰国した。

 ■連係熟成のはずが

 ただ、卓球が今年1月の段階で6人の代表全員を決めたのは、代表レースを通じて選手を強化するのではなく、逆に代表争いから早く選手を解放し、その後の半年を「打倒中国」に向けた強化に専念させる狙いがあったからだ。

 卓球王国・中国が圧倒的な強さを誇る中で、日本はダブルスでは善戦してきた。特に東京五輪で新採用となる混合ダブルスは中国の強化が遅れ気味で、付け入る隙が十分にある。ワールドツアー上位選手で争う昨年12月のグランドファイナル決勝でも、水谷隼(30)=木下グループ=と伊藤のペアは世界選手権を制した中国ペアをあと少しまで追い詰めた。五輪本番も水谷、伊藤組で臨む予定だが、ペアを組み始めたのは昨年のため、実戦を通じて連係を深めていく目算だった。

 シングルスも、本番までに大会出場を重ねて世界ランクを上げておくことで上位にシードされ、表彰台の可能性がより高まる。倉嶋監督が懸念するように、実戦感覚が失われることも、若い選手が多い日本代表には不利となりかねない。五輪ではダブルス要員となる平野美宇(19)=日本生命=は「1人でもレシーブ練習だったり、誰かに付いてもらって練習することはできる」と前を向いた。