引用元:月刊陸上競技
本来なら4月から陸上の日本グランプリシリーズがスタート。4月末から5月にかけては毎年大きな盛り上がりを見せる。今年は残念ながら軒並み競技会が中止。そこで、2019年の日本グランプリシリーズで印象に残ったシーンをプレイバックする。
1年前の2019年5月6日。女子やり投の歴史が動いた。木南記念(大阪・ヤンマースタジアム長居)で、北口榛花(当時・日大、現・JAL)が、64m36の日本新記録を樹立した試合を振り返る。
(『月刊陸上競技』2019年6月号掲載)フィールド種目初の五輪標準突破驚きや衝撃よりも、ようやく――という感じだ。
59m75で優勝した織田記念から1週間後の木南記念。女子やり投の北口榛花(日大)は、2回目に59m54を投げた。トップ8に入ってからの4投目。助走をスタートしてすぐに向かい風が強いと感じ、「いつもより前に進もう」という意識で走ったという。その勢いを生かした投げで自己新の63m58をマークし、ドーハ世界選手権の標準記録(61m50)を突破した。
「4回目と同じ、4回目と同じ」
そう言い聞かせながら投じた5投目に“その瞬間”は訪れる。いつもよりスピード感のある助走から、ダイナミックな投げで放たれたやりは、日本記録を示す赤いラインの向こう側に突き刺さった。
海老原有希(スズキ浜松AC)が持つ日本記録63m80を4年ぶりに更新する64m36の日本新記録は、アジア歴代5位、今季世界ランク6位(大会終了時点)。大学1年時にマークした自己記録61m38を約3mも更新してみせた。2019年5月1日から有効となっていた東京五輪の参加標準(64m00)もクリア。フィールド種目では最初の突破者となり、179cmの身体全体を使って喜びを爆発させた。
「調子が良かったので今シーズンどこかで大きな記録が出ればと思っていましたが、ここ(木南)とは思いませんでした。ずっと目標に掲げてきた日本記録を更新できて、うれしいのとホッとしたのと両方。東京オリンピックの標準記録を突破できたことが一番うれしいです」
織田から1週間で2試合だったが、昨秋には「海外転戦を見越して」福井国体優勝から1週間後に日大競技会に出場。その時は疲労を抜き過ぎて失敗したが、そういった経験も生かされたと言えるだろう。
4、5投目は「これで飛ばなかったらどうしよう」というほどの会心の投げ。「4投目は身体が少し折れている感じがしたので、次は(身体を)起こすために少しやりの高さを出すイメージで投げました」と、歴史的快投を振り返った。