東京五輪はコロナ対策で「おもてなしを」 くすぶる中止論に組織委の元バドミントン選手が提言

東京五輪はコロナ対策で「おもてなしを」 くすぶる中止論に組織委の元バドミントン選手が提言

 バドミントン日本代表で北京、ロンドン両五輪に出場し、東京五輪大会組織委員会のアスリート委員会で委員を務める池田信太郎氏(39)=福岡県岡垣町出身=がオンラインで本紙の取材に応じ、中止や再延期論も出ている東京五輪開催の意義を語った。 (聞き手・構成=末継智章)

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 -コロナ禍で五輪が1年延期になった影響は。

 「五輪競技は4年がかりで戦略的な強化方針を組んでいる。3月に延期が発表されたとき、残り4カ月で準備をして勝負できる選手はたくさんいた。しかしコロナの影響で、所属先が練習施設を持っていない選手は、公共や民間の施設から受け入れを制限されて2、3カ月間練習できなかった。特に対人競技は強いレベルの選手が集まらないと質の高い練習ができない」

 -バドミントン日本代表も予定していた秋田県の合宿が見送られた。

 「五輪スポーツは企業がベース。雇用するアスリートが感染してニュースになると、世論から『よろしくない』と言われ、株価に影響する。まだまだ解決できていない問題だ」

 -活動資金に苦しむ選手もいる。

 「ウーバーイーツの配達員をアルバイトで始めたフェンシングの三宅諒選手のように、スポンサーシップを受けられずに練習環境を見直さないといけない選手も出ている。ミクシィの『Unlim(アンリム)』のように不特定多数の人が選手を支援する仕組みも出てきたプラスの側面も多少はあるけど、トータルで加味しても選手が今以上に強くなる環境を与えられる状況ではない」

 -1年後も開催できるか分からない不安がある。

 「選手は期限を決めて目標を計画的に設定し、トレーニング期間や技術的な練習する時期などを定める。必ず1年後にやるなら準備ができるが、先が見えないと、どういうふうに取り組めばいいのか不透明になる」

 -自身が現役なら今の状況をどう受け止める。

 「若いころなら休んでもすぐパフォーマンスを取り戻せるが、全盛期を過ぎると練習を1週間休むだけで戻すのが大変だな、と。試合にピークを合わせるには日々の良質な生活習慣やトレーニングの積み重ねが必要で、整った環境と切磋琢磨(せっさたくま)する競争があってこそ良質な練習はできる。人は環境に依存しやすく、一人でやるのは難しい。整った環境ができにくいのが問題」

 -東京五輪の中止や延期を求める声が大きい。

 「選手自身は開催してほしいと思っているけど、なかなか発信しにくい。大げさに言えば、人はスポーツや音楽がなくても生きていける。でもエンターテインメントなど人生に付属するものがあるから人は豊かに生きていけるし、他人を思いやる心が出る。アスリートが活躍しやすい環境やポジティブに発信できる環境をつくるのは組織委やアスリート委員会の役割。1年前を迎え開催の是非が話題になる今こそ、何のために開催するのか議論しなくては」

 -池田氏が考える開催する意義は。

 「今回はウィズコロナ時代で初の五輪。入国時にPCR検査をし、安全面について説明するなど、コロナ対策を通じた相手に対する配慮やおもてなしをすることで、日本の国民性を再定義できるのではないか。また、1964年の東京五輪で新幹線も高速道路もできたように、五輪は産業の大きなパラダイムシフト(認識の劇的な変化)を生んでいく担い手。日本経済の成長を加速させる側面もある。開催の是非は多面的に見て考えないといけない」

 -国民にスポーツの価値を高めることも重要。

 「在宅勤務でずっと部屋にいると精神的なストレスが出るし、運動不足も出てくる。これを解消するのもスポーツが果たせる役割だ。スポーツは楽しいとか感動するという抽象的な表現ではなく、身体的に何が解決できるのかとか、社会における役割を明確にすれば、五輪開催も必要と思われるのではないか」

 -国際オリンピック委員会(IOC)は大会の簡素化をうたっている。

 「コロナ対策をすると、かなりの支出を伴うし、人的資源のコストもかかる。AI(人工知能)やITを活用してオートマチックにすることが必要かなと思う。選手がパフォーマンスを最大限に発揮できる配慮をしつつ、エンターテインメント上の仕掛けといったスポーツをよりよく見せる色付けのようなものを減らしていくのは致し方ない」西日本スポーツ