「ラケットを置いた」金メダリスト【スポーツの言葉考】(28)

引用元:時事通信
「ラケットを置いた」金メダリスト【スポーツの言葉考】(28)

◇引退を意味する慣用句

 2016年リオデジャネイロ五輪のバドミントン女子ダブルスで、松友美佐紀(日本ユニシス)と「タカマツ」ペアを組んで金メダルを獲得した高橋礼華が、現役引退を表明した。五輪の延期などで決断をしたそうだ。

 バドミントンの選手だからテニスや卓球と同じように、引退することは「ラケットを置く」とも言う。

 スポーツ選手の引退を意味する慣用句には、用具や競技場の名称を用いたものが多い。ボクサーは「リングを降りる」「グローブを吊るす」、サッカーは「ピッチを去る」、競走馬は「ターフを去る」、騎手は「馬を降りる」など。

 野球の野手は「バットを置く」、投手は「マウンドを去る(降りる)」。監督・コーチの退任を含め、現場を離れる時は「ユニホームを脱ぐ」。

 力士は「土俵を去る(降りる)」。「まげを切る」には不祥事などのマイナスイメージを感じる人もいるので、慎重に使いたい。以前、引退記事を書いている記者から「『まわしを外す』という表現はよく使いますか」と聞かれたことがある。禁句ではないが、想像する読者の身になると勧められなかった。

 特に慣用句のない競技もある。スポーツクライミングやスケートボードなど新しい競技は、若い記者の感性に任せよう。

 スポーツ以外にもこうした言葉はある。作家や記者は「筆(ペン)を折る」だが、商業マスコミの記者は選手ほど悩んで決断するわけでなく、サラリーマンの宿命でいつしかそうなる場合が多い。

 執着が強いのは何と言っても政治家だろう。道を外してもなかなか「バッジを外す」決断はしない。そんな人々が東京五輪開催の可否もにらんでうごめく間に、苦しんでいる選手たちがいる。(時事通信社・若林哲治)