オリパラ簡素化は世論の共感意識/室伏長官に聞く1

引用元:日刊スポーツ
オリパラ簡素化は世論の共感意識/室伏長官に聞く1

スポーツ庁の2代目長官に10月1日付で就任する室伏広治氏(45)が29日、インタビューに応じた。2回連載の第1回は東京オリンピック(五輪)・パラリンピック組織委員会のスポーツディレクター(SD)としての6年4カ月を振り返る。新型コロナウイルスの影響で延期となった大会の簡素化や、15、16年に直面した競技会場移転の裏側を明かした。【取材・構成=三須一紀、木下淳】

【写真:別カット】インタビューに応じる室伏広治氏

-9月25日、大会簡素化52項目が発表された

「簡素化がSDとして最後の仕事。6年間で築いた信頼関係が生きたのかな。みんな身を削ってくれた。見方によっては『これしか削れなかったのか』という声もあるが、既に契約済みの案件がある中、できるだけ派手にせず質素にし、コロナを乗り越えていこうという雰囲気だった。6年間の信頼関係が生きたかな」

-簡素化で汗をかいたことは

「ほぼ、各国際競技連盟(IF)との個別ミーティングに出るようにしていた。極力出て、理解を得る。具体的な話になる前に、ご協力をあおぐ。必ず」

-具体的には

「例えばIFラウンジ。いろんな大会に行くと各IFが独自ラウンジを持ち、お客さんをおもてなす。(五輪でも)そこはIF予算で整備するが全体が自粛ムードの中、お金を出すから何でもいいではなく派手なことは控えたかった。大きな削減額に直接結びつくものではないけど、コロナで苦しむ方もいる中、我々は選手のパフォーマンスで感動を与えていくのであって、そうでないところは極力簡素化しようよと」

-削減額の大小だけでなく世論の共感も意識した

「それはまさに私の後任がやっていくこと。コロナ禍でどういうオリパラにしていくか」

-室伏さんがいるスポーツ局としてはスポーツプレゼンテーション(競技の見せ方、演出)を簡素化した

「スポーツプレゼンは絶対に必要なもの。初めて競技を見る人にどういう時に盛り上がり、どこで静かにするかなど、分かりやすくする。だから(プレゼン自体をなくすのではなく)派手な花火や炎での演出を控えた。本来なら1年延期でかかる機材費や人件費を何とか交渉して抑えた。スポーツ局として各IFの承認を得ていった」

-6年超のSD職。国際オリンピック委員会(IOC)やIFとタフな交渉を続け、苦労した点は

「競技団体との交渉。組織委内部の調整。東京都の施設を使うので都の意向を聞く。日本ならではの事情など、最初は信頼関係をつくることが難しかった」

-思い起こされる場面は

「我々にとって最も大事なのはスポーツアコードとIFセミナーの年2回の国際会議。リオ大会がいろいろ言われ、こんなに攻撃されるんだと思った。日本はあまり言われなくて高をくくっていたけど18年、あと2年となったら、いきなり細かいところまで厳しく、質問も無数で容赦なかった。しかし彼らも競技団体として存続を懸けているので、わがままではない。彼らのライバルはすぐ横にいる他の競技団体なんです。放映権の分配、座席数、チケットの売れ具合、SNSの拡散具合など各団体、勝負なんです」

-各団体の言い分をどう調整したのか

「例えば観客席数。各団体が競い合っている観点から、それぞれ客席を多くしてと要望がある。しかし、リオ大会のように空席が目立つと競技イメージが悪くなる。そのバランスを考えつつ、現実的な施設条件との兼ね合いから、できないものはできないと厳しく詰めたところもあった。みんなで乗り越えました」

-招致計画にあった新設会場を経費削減の観点から、既設会場に変更した時期も大変だった

「バドミントン会場の交渉は難しかった。招致計画だと新設会場を選手村近くの夢の島(江東区)に造るはずだったが、ちょうど武蔵野の森(調布市)にアリーナができるタイミングだった。しかし予選後の数時間、新設会場なら選手村に帰って休めたところが(調布では)できない。最初は受け入れてもらえなかった。かなり各IFとやり合ったが、組織委全体が力を合わせたから計画が固まったと確信している」

-16年下半期にあった会場移転問題も苦労したのでは。例えば五輪バレーボール、パラ車いすバスケットボール会場の有明アリーナ。都が経費削減を理由に、横浜アリーナへの会場変更を提案してきた

「突然だった。(15年まで)見直しをしてきた後に突如、再び見直そうとなった。昨日、荷物を整理していたら当時、(日本トップリーグ連携機構会長の)川淵三郎さんの名で提出された有明アリーナ整備続行の嘆願書が出てきた。その強い要望が、有明アリーナを残すことにつながったのだと思う。そういう経緯で残った会場なので、みんなに親しみのある五輪パラ会場に、ずっとなっていってほしい。結果として残って良かったと思う」(つづく)

◆室伏広治(むろふし・こうじ)1974年(昭49)10月8日、静岡県生まれ。千葉・成田高-中京大-中京大大学院。男子ハンマー投げの日本記録(84メートル86)保持者で00年シドニー五輪から4大会連続出場。04年アテネで金メダル、12年ロンドンは銅メダル。14年6月から組織委SDに就任。日本オリンピック委員会や日本陸連の理事も務めた。187センチ。