亜流貫く草野球150キロ杉浦へ球界もリスペクトを

引用元:日刊スポーツ
亜流貫く草野球150キロ杉浦へ球界もリスペクトを

高校・大学と野球部未所属ながら150キロを投げる草野球プレーヤー・杉浦健二郎投手(21)の記事が、インターネット上で反響を呼んでいる。取材、執筆した立場ながら、けっこう驚いている。

【写真】ロングティーでサク越え!相模台レイダース杉浦

「野球は好きだけど、野球だけをずっとやらせる風潮は違うんじゃ」。

その体質を拒んで高校野球には目もくれず、バドミントン部へ進んだ若者。何かを感じた読者が多かったのだろうか。

大変お恥ずかしながら、自分のことを書く。26年前、記者は中学入学半年後に野球部からドロップアウトした。少年野球では、そこそこの強打者で鳴らした自負はある。楽しい日々からガラッと変わり、異常に厳しい上下関係。異常に怖い顧問。大会前は有無を言わさず五厘刈り。体罰もあった。1年生は走るか筋トレかの2択。長距離走が苦手で相当しんどかった。

特に相性の合わない先輩がいた。私は地声が大きい方ではない。ノックで「もっと声出せ」としつこく言われ、限界まで出した。それでも不満らしい。「内緒だけど、実は俺も、そんなに声出してねえんだよ。面倒だしな。お前もそうだろ?」。本心は「いいえ」だったが、何となく「はい」が好まれる流れだった。

数日後、うわさが広まった。「あいつ、本気で声出してないらしいよ」。なんで、野球がこんなにつまらなくなったのだろう。もう無理だと思った。「退部します」。職員室に伝えに行くことさえ、数週間悩み抜いた。半年前まであれだけ仲が良かった野球仲間とも、ぎこちなくなった。

大人になって振り返れば、決して耐えられなかったことではない。今は当時のチームメートと会えば普通に楽しく話すし、取材先で偶然顧問に再会した時も、むしろ喜んでくれた。当時の心境を告白すると「そうだったのか」と広く受け止めてくれた。

でも、13歳には無理だった。個々人は皆、普通の中学生。でも集団では、思春期特有のプライドがぶつかり合い「弱者」を探す。自分のステージを上げるため他者を押しのける。今でいう、マウンティング。私は「された方」だったが、別の集団では「した方」になっているかもしれない。

集団内は、時に周りが見えなくなる。不条理を不条理と思わない人、耐えられる人、そうでない人。野球に限らずいろいろな集団の中で、いくつもの才能や「○○が好き」という子どもたちの思い、夢がつぶされてきたのではないだろうか。

1年間、多くの学生野球の現場を訪れた。怒鳴る指導者はまだ多いし、見ていて「あの態度なら怒鳴られて当然だな」と思うこともある。既存の枠組みは否定しないし、チーム一丸で勝利に執念を燃やす姿には心を打つものがある。ただ、それが全てではない。

杉浦投手は来季、BCリーグでプレーする予定だ。成長次第でNPB入りも見えてくる。亜流を貫いてきた彼が、球界の本流に戻る。余計なことを考えずにパフォーマンスに専念できる環境であってほしい。どっちも正しい-。リスペクトにあふれる球界であってほしい。【金子真仁】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)