岩渕真奈の好調は「腸腰筋」にあり。身体の専門家が施したトレーニング法とは?

引用元:REAL SPORTS
岩渕真奈の好調は「腸腰筋」にあり。身体の専門家が施したトレーニング法とは?

ダルビッシュ有など多くのアスリートの体のケアとパフォーマンスアップに関わる植野悟は「そもそもアスリートが練習をする、試合をすること自体が歪む行為」だと話す。ではアスリートはどのようにして歪んだ体をケアし、パフォーマンス向上に努めるべきなのか。植野がキーワードとして語る「重力に対して“まっすぐ”を感じること」とは?

そもそも練習や試合をすること自体が歪む行為
川崎フロンターレなどのJリーガー、岩渕真奈(女子サッカー)、奥原希望(バドミントン)など、競技の枠を超えて多くのトップアスリートの体のケアを行っている治療家の植野悟。元アルペンスキー日本代表選手の皆川賢太郎と二人三脚で向き合った治療の日々が彼の基礎を築き、現在はトップアスリートとともに世界中を飛び回る日々を送る。「ケガをしても絶対に元に戻す」ために彼が気づいたスポーツにおける「全身にかかる力と体の構造の関係」の秘密に迫る。 ――よくアスリートは体のケアが必要だと言います。でも、「重大なケガがなければ毎日は必要ないのでは?」とも思います。植野さんは、治療家としてどうお考えですか?

植野:私はアスリートが練習をする、試合をすること自体が、そもそも歪む行為だと考えています。選手が競技するときは、自分の武器で勝負しないと勝てませんから自然に得意なところを多く使っているはずなんです。要は、得意なところに負担がかかっているので、どんな選手であっても必然的に歪みは生じてしまうものなんです。でも、そうしないと100%の力を発揮したと言えませんし、その先の課題や改善も見つからないので得意なところを使うのは当たり前のことです。 
 私の治療は、基本その歪みをその人本来の状態に戻すことです。
 例えば、元に戻さずに体を鍛えてしまったらどうなりますか? 歪みに歪みを重ねることになるから、目も当てられない状態になります。これはアスリートだろうが、一般人だろうが、同じことです。
 その物差しにしているのが、重力に対して“まっすぐ”を感じてもらうことです。私の考えでは、重力と加速と遠心力のバランスを保ちながら動くことがスポーツには求められます。つまり、この3つの力に対して体がどういう反応をしているかが、バランスを保って素早く動くことを左右しているんです。

――重力に対して“まっすぐ”を感じるとは?

植野:例えば、手のひらを上に伸ばしてそのままクルッと回してみてください。歪みのない人はどんなふうに回ると思いますか? 私の解釈では、中指を中心に回っているはずなんです。体の構造を考えると、それが歪みのない回し方です。回っている間に、中指が変に動いている人は手が歪んでいます。

――私は中指を伸ばしたまま回すだけでも違和感を感じます。

植野:それは歪みの症状ですね。人間はジッとしているとき、ストレスを感じているところに症状が現れます。その人にとっては歪みがある状態が普通になっていて、それが楽なんです。でも、本来は伸縮機能が正常に働いている状態がノーストレスなので、どこにも違和感なんて感じるはずがありません。歪みがあるときはどこかが無理して伸びているし、どこかが縮んでいるから必ず筋肉に凝りがあるんです。
 それが歪みの始まりです。
 普段は靴を履いていますよね? あれはバランスをとるために足を自由に動かすことができないので、常にストレスがかかった状態です。どこを基準に歪みを測るかは、手と同じように中指が中心です。勘違いしてほしくないのは、足の中心が母趾球でないこと。最近は、体の動作を考えるときに“母趾球”中心に語っている人がいますが、それは間違っていると思います。
 例えば、全力疾走して前に足を着くときに母趾球を強く使ったら膝にロックがかかり、後ろに衝撃が反発します。だから、直線を素早く移動したいなら母趾球を中心に動作をしてはダメなんです。あくまで地面に自然に母趾球が着けば、体は勝手に内旋して次の動作に移るようにできています。そのまま流れるように体全体を動かしたら勝手に足は後ろに上がり、腸腰筋(腰椎と大腿骨を結ぶ筋肉群)が働いて足は自然に動きます。
 よく走るときに母趾球が大事だと言いますが、母趾球は意識して使うものではなく、結果的に“使っている”状態が動作としては自然です。伸ばす筋肉よりも縮む筋肉のほうが強いので、体は縮まるようにできています。だから、生まれたての赤ん坊は丸まり、高齢になると腰が曲がったりするんです。
 どこか体が痛いということは何かが動いていない証拠だし、どこかが機能していません。私たち治療家はそこを見つけ出し、機能するように揉んだり鍼(はり)を刺したりして元に戻すのが仕事です。でも、そこから「どこまで体に介入していいか」はアスリート次第です。違和感がある時点ですでに筋肉に凝りがありますし、今は痛みがないかもしれませんが、それが原因でケガを起こす可能性があります。
 そうなる前に処置を施す必要があるため、私たちもある程度は介入せざるを得ません。私の治療は悪い状態のときほど選手の痛みや凝り、違和感を取り除いているため、実感があるのですが、だんだん治ってくると何も感じなくなるので「ん?」と思う選手が多いです。

――だからこそ毎日ケアする必要があるわけですね。

植野:どの治療家にも自分なりの基準があるかはわかりません。ただ、少なくとも筋肉をケアしているとは思うので、ケガの原因となる凝りや違和感は解消しているはずです。私が治療していると、アスリートは気持ちよさそうに寝ている選手も多いです。体を元に戻しているから楽になってリラックスできるんでしょうね。血圧も下がっていると思いますから。

――数値を出しているのですか?

植野:私は心拍数と呼吸数を測っています。治療前と治療後では数値が違いますよ。海外遠征に行って連戦を重ねても、治療をしながらだと数値は安定していますので、きちんと効果は出ています。