東京五輪中継「勢力図」に異変! 一番人気は陸上男子リレー “花形”マラソンは長期低迷と札幌開催で人気急落?

引用元:夕刊フジ
東京五輪中継「勢力図」に異変! 一番人気は陸上男子リレー “花形”マラソンは長期低迷と札幌開催で人気急落?

 開幕まで200日を切った東京五輪。NHK、民放各局による中継競技の争奪戦も佳境に入り、希望が重複した人気種目はプロ野球のドラフト会議と同様、抽選にゆだねられた。一番人気は、サニブラウン・ハキーム(20)を軸に日本が本気で金メダルを狙う陸上男子4×100メートルリレーで、各競技の割り振りは24日にも発表される。放映権だけでも数百億円のビッグマネーが動く、テレビ業界にとっても4年がかりの大事業。悲喜こもごもの舞台裏を探った。(夕刊フジ編集委員・久保武司)

 五輪、サッカーW杯などの世界的なスポーツイベントは、NHKと民放各社が運営する放送機構「ジャパンコンソーシアム」が、高額な放映権料の支払いと中継の共同制作を行っている。人気が集中した種目の中継局は抽選で決定。2014年サッカーW杯ブラジル大会では、スタッフ全員で高尾山にお参りしたテレビ朝日が、日本戦の放映権を4大会連続で獲得するなど、放映権を巡る数々のドラマがある。

 今回の五輪では、その人気勢力図に異変が。これまで日本における五輪のテレビ中継の花形といえば、男女ともマラソンだった。男子では1984年ロサンゼルス、88年ソウル大会に出場した瀬古利彦氏。そして女子は2000年シドニー大会で、史上初の金メダルを獲得した高橋尚子氏らが黄金時代を築いた。

 「勝てない期間が続いていますが、マラソンの人気は毎大会、根強いものがあった」と民放関係者。しかし、光が見えない日本勢の長期低迷と、東京から札幌にコース変更になったダブルパンチにより、自国開催の大会でついに地に落ちた。

 代わって躍り出たのが男子4×100メートルリレーだ。前回リオ大会の銀メダルにも貢献したサニブラウンを中心に、表彰台の真ん中を十分に狙える布陣が編成される予定。

 放送時間帯にも恵まれた。「決勝が8月7日の夜、午後8時から10時55分に行われることが大きい。日本勢が決勝まで進めないリスクもありますが…。どの局も中継したい種目です」(同)

 また、北島康介氏の金メダルラッシュに沸くなど、これまで「日本のお家芸」に数えられてきた競泳も人気競技の座から陥落。金メダル候補だった美女スイマー、池江璃花子(19)が白血病で出場を断念するなど、下馬評の低さから敬遠された格好だ。「やはり日本勢が勝てる、メダルが確実に取れるであろう競技に人気が集まります」(同)。卓球やバドミントンは、前例がないほど人気が高騰している。

 【NHKの“主張”】

 東京五輪の放映種目の決定プロセスは、例年より大幅に遅れている。その理由は「NHKが地上波、BS波に加えてネットでも生中継したいと強硬に主張したから」(別の民放関係者)。複数の関係者によれば、NHKは民放が生中継している映像を「そのままネットでも使いたい」と要求したが、民放各局はもちろん強く抵抗。いまだ綱引きが続いているという。

 1976年モントリオール大会では、放映権料の90%近くをNHKが払ってきたが、2006年冬季トリノ大会以降は民放各局の負担率も30%まで増えた。両者のあつれきといえば、もはや定番といえるのがアナウンサーの“乗り合い事故”だ。

 五輪期間中は他局の電波に乗せて実況することもあるが、「これまでの大会では何らかのトラブルが必ず起きています。NHKのアナが慣れないCMの入れ方でミスしたり」(前出関係者)。その一因は「五輪やW杯などでは民放の場合、ディレクターが適性を見てアナウンサーの派遣や抜擢を決めます。でもNHKではそうはいかない。アナウンサーの方が主張が強いからです」(同)。

 目前に迫った東京五輪でも、“ONE TEAM”になれる状況にはほど遠いという。

 【メダルラッシュでも赤字必至】

 東京五輪の日本向け放映権は、2018年の平昌冬季大会とのセット売りで、その総額は過去最高の660億円。ただ、黒字の見通しは全く立たないという。民放関係者は「金メダルラッシュになってもまず、黒字にはならないでしょうね」と嘆き節。事実、平昌では5億円、サッカーW杯ロシア大会ではなんと40億円超の大赤字を出した。

 そもそも米テレビ局が14年ソチ冬季大会から10大会分の放映権を、120億ドル(約1兆3000億円)というべらぼうな額で取得。そのあおりで日本も割に合わない額を払わされている。それでも米側の発言力は絶対的で、真夏の東京で五輪が強行されたあげく、マラソンは札幌に変更される羽目となった。

 ただ、民放各局が一喜一憂させられてきた数字にも、東京五輪をきっかけに変化の兆しが。従来の「世帯視聴率」だけでなく、より精度の高い「全国視聴人数」が出てくる初めての五輪だ。数値に見合った“適正価格”を訴えることで、青天井の放映権料にくさびが打たれる可能性が高い。