東京オリンピック代表内定はまだ1人…リオ金メダリストたちの現在地

 東京オリンピックの年、2020年が明けました。代表内定に向けた選考レースは今後佳境を迎えますが、各競技の「顔」とも言える16年リオデジャネイロ五輪の金メダリストのうち、これまでに内定しているのは、意外にもレスリング女子の川井梨紗子選手(ジャパンビバレッジ)1人だけです。19年は多くの王者たちにとって苦難と激動の年となりました。(読売新聞オンライン 斎藤明徳)

■金メダリスト対決

 川井選手は階級を63キロ級に上げて臨んだリオ五輪で金メダルを獲得。その後は主戦場に戻り、リオで連覇を「4」に伸ばした伊調馨選手(ALSOK)と57キロ級の代表の座を争いました。18年12月下旬の全日本選手権決勝で伊調選手に敗れ王手をかけられた形となりましたが、背水の陣で臨んだ昨年6月の全日本選抜の決勝、続く7月のプレーオフに連勝し9月の世界選手権(カザフスタン)の切符をもぎ取りました。その世界選手権ではメダル獲得でオリンピック代表内定という条件を難なくクリア、そのまま決勝も制し3連覇(17年は60キロ級、18年は59キロ級)を果たしています。

 こうした活躍が認められ、川井選手は2年連続で日本スポーツ賞の優秀選手に選出されました。今月17日に都内で行われた表彰式では、伊調選手に黒星を喫してから間もないタイミングだった前回表彰式を思い出し、「次は(伊調選手に)勝ちたいなと思いつつ、もう1回戦えるのかなという不安があった」と心身を極限まですり減らした熾烈(しれつ)な代表争いを振り返っています。ただ、それを勝ち抜いたことへの確かな手応えもあるのでしょう。「(東京オリンピックに向け)本当に迷うことなく、振り向かずにやるしかない」「自分のレスリングのスタイルに自信を持っている」と気持ちを新たにしていました。

 一方、階級変更の道もあった伊調選手ですが、昨年12月の全日本選手権にエントリーせず、オリンピック出場と5連覇の可能性は消滅しています。

 競技は違うものの、リオの金メダリストで昨年の世界選手権に優勝したのは、ほかに柔道男子73キロ級の大野将平選手(旭化成)がいます。6試合オール一本勝ちという圧倒的な内容で制しました。優勝かつ強化委員会の3分の2以上の賛成があればオリンピック代表に内定する立場だった昨年11月のグランドスラム大阪は左手人さし指の負傷を理由に欠場しましたが、代表争いをリードする存在です。

■復活目指す内村、萩野…

 リオで男子個人総合の連覇を果たし、団体総合でも「金」に輝いた体操の内村航平選手(リンガーハット)は、肩の不調に苦しみ、個人総合で争われた昨年4月の全日本選手権でまさかの予選落ち。結局、世界選手権(ドイツ)の代表入りを逃しました。世界選手権では15年まで個人総合で6連覇、18年の団体総合では「銅」確保に貢献し日本に東京オリンピックの団体出場権をもたらすなど数々の輝きを放ってきましたが、その舞台に立てませんでした。

 世界選手権代表には、左足首を痛めて出遅れた白井健三選手(日体大大学院)らも落選しており、リオの団体「金」メンバーは1人も入っていません。ただ、内村選手は年末にはオーストラリアで合宿を行い、白井選手も年明けの初練習を公開するなど、選考レースでの巻き返しを誓っています。

 復活を期すのは競泳の萩野公介選手(ブリヂストン)も同じです。高校3年時のロンドン五輪で「銅」だった男子400メートル個人メドレーはリオ五輪では「金」に飛躍、さらに200メートル個人メドレーで「銀」を獲得し、800メートルリレーでは日本の「銅」に貢献しています。ただ、昨年3月に自身の公式サイトに「今は競技に正面から向き合える気持ちではない」などと心境の変化をつづり突然休養に入ってしまいました。優勝すればオリンピック代表に内定出来た7月の世界選手権(韓国)への道も閉ざすことに。

 8月に実戦復帰しましたが、読売新聞の9月26日夕刊では「もがく萩野 諦めぬ頂」とブランクとの格闘を紹介しています。苦しんだ1年を終え、まずはオリンピック代表がかかる今年4月の日本選手権、そして、その先の頂上決戦を見据えます。

■追う立場、若手突き上げ

 バドミントンで日本勢初のオリンピック金メダルを獲得した高橋礼華(あやか)、松友美佐紀組(日本ユニシス)はハイレベルな競争のただ中にいます。東京大会に出場できる女子ダブルスのペアは最大2組。今年4月末の世界ランキングが節目となりますが、世界バドミントン連盟のホームページによると、今月21日時点で高橋、松友組は7位で、2位の永原和可那、松本麻佑組(北都銀行)、3位の福島由紀、広田彩花(さやか)組(アメリカンベイプ岐阜)を追いかける立場です。

 リオ五輪に続き17年の世界選手権も初制覇したレスリングの土性沙羅選手(東新住建)は、女子68キロ級のオリンピック代表の座をかけて3月にプレーオフに臨みます。優勝なら内定が出る立場だった昨年12月の全日本選手権で結果が残せなかったためです。プレーオフの相手は準決勝で苦杯を喫した20歳の森川美和選手(日体大)です。

 代表争いの激しい渦にのみ込まれた感があるのが、レスリング女子50キロ級の登坂(とうさか)絵莉選手(東新住建)と、柔道男子90キロ級のベイカー茉秋(ましゅう)選手(日本中央競馬会)です。2人ともリオ五輪で頂点に立った後は負傷による離脱などもあり、世界選手権に出場できていません。

 ベイカー選手は昨年11月のグランドスラム大阪で、優勝したジョージアの選手に3回戦で敗れ、12月のワールドマスターズ(中国)は故障で欠場しました。

 登坂選手に至っては東京オリンピックの道が閉ざされてしまいました。昨年12月の全日本選手権に優勝すれば、まだ取れていない女子50キロ級の五輪出場枠を自ら取りにいけましたが、準決勝で敗退。枠を取るその大役は登坂選手を破った17年(48キロ級)、18年の世界選手権女王で20歳の須崎優衣選手(早大)に託されました。

 リオ五輪から3年半。月日の流れは時には残酷ですらありますが、「連覇」はリオ五輪金メダリストの特権であり、偉業と言えます。その挑戦権を手に入れ、地元開催のオリンピックで輝くのは果たして誰でしょうか。

◆メモ リオ五輪の日本の金メダルは12個で、内訳はレスリング4、柔道3、競泳2、体操2、バドミントン1。27歳11か月で挑んだ同五輪競泳女子200メートル平泳ぎで圧勝し、日本競泳女子の史上最年長メダリストとなった金藤(かねとう)理絵さんは18年3月に、日本女子柔道唯一の金だった70キロ級の田知本遥さんも17年10月に引退しています。