3170発「歌舞伎町の本塁打女王」待ち望む再開

引用元:日刊スポーツ

「眠らない街」東京・新宿歌舞伎町に、いつもは毎日午前4時まで営業する「新宿バッティングセンター」がある。恰幅(かっぷく)の良い男性客に混じり、一心不乱にバットを振る小柄な女性が、「歌舞伎町のホームラン女王」の異名を持つ初谷(はつがい)純代さん(47)だ。現在までに同店で放った通算ホームラン数は、3170本で他の追随を許さない。

14年前から、いつもは毎週木曜日に通い続けている初谷さんにとって、バッティングセンターは欠かせない場所だ。「できないことが、できるようになっていくのが実感できる場所」と語る。その上で「私は体を動かすことで、自分が自分であることを感じられるんです」と自己を分析する。

新型コロナウイルスの影響が日本中に影を落とし始めた3月中旬、新宿歌舞伎町の「新宿バッティングセンター」はいまだ活気に満ちていた。訪日客や近くの風俗店関係者らが打席に立ち、夢中になってバットを振る。もちろん、初谷さんの姿もあった。

初谷さんが打席に立つ。カキーンと乾いたような金属音を上げ、打席から30メートル近く離れた先のボードにボールが吸い込まれていく。電光掲示板がパッと光り、本塁打を告げた。7枚の「ホームラン」ボードが、初谷さんの標的だ。額に汗をかきながら、黙々とバットを振る。

右打席専用の打席に立つ初谷さんは、時速90キロ台のボールに、ほとんど空振りしない。小柄な体格からは想像できないが、長打性の当たりを量産する。3月だけで13本のアーチを放ったが「1カ月で最高52本のホームランを打ったことがあるのでまだまです」と謙遜した。

同居する会社経営の荒牧努さん(51)とともに、毎週木曜日の昼すぎから店を訪れる。休憩を挟みつつ打席に立つのは4時間余り。1ゲーム25球(300円)を40~60回行う。終了後には両手にマメができたり、ばね指になったりとダメージが蓄積する。初谷さんは「回数を重ねた時にできる勲章。うまく打てた時の喜びが大きいので、毎週新しい気持ちで店に通っている」。口ぶりには充実感が満ちている。

運動不足を解消しようと荒牧さんとよく散歩していたが、物足りなかった。自宅近くで夜遅くまで営業する「新宿バッティングセンター」の存在を知り、2006年から通い始めた。

ただ、中学時代はバドミントン部、高校時代はハンドボール部で、それまで野球とは縁のない生活を送ってきた。しかし、通うようになって2週間、3本のホームランが出た。翌月には6本、翌々月には9本と本数を伸ばすうちに、のめり込んでいった。

初谷さんは「グリップの握り方も最初は分からなかったけど、負けず嫌いなので。やっているうちに体で覚えていった」と振り返る。思うようなバッティングができないと、翌週まで引きずることも少なくない。逆に改良を重ねてうまくいった時の喜びは何にも代え難いといい「スポーツって良いですね」と頬を緩ませた。

「新宿バッティングセンター」は緊急事態宣言を受け、7日から臨時休業している。新型コロナウイルスによる自粛要請は当面続きそうで、初谷さんもしばらく活動休止を余儀なくされる。感染拡大がおさまり、同店が営業再開してまた打席に立てる日が来るのを、初谷さんは心待ちにしている。試行錯誤を重ねながら打ち立てた前人未到の3170本塁打記録は、これからも伸び続けるはずだ。

【平山連】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

◆初谷純代(はつがい・すみよ) 1972年(昭47)10月25日、栃木県足利市出身。趣味は体を動かすこと。スポーツジムに通うのが好きで、エアロビクスやアクアビクスにも親しんでいる。154センチ、45キロ。