競技名の「女子」は前か後か 【スポーツの言葉考】(19)

引用元:時事通信
競技名の「女子」は前か後か 【スポーツの言葉考】(19)

◇「女だてらに」マラソン? 

 企業名には「株式会社」が前に付く社と後に付く社がある。通称「前株」「後株」という。スポーツの競技名に性別を付けるときもまちまちだ。

 メディアの表記で前に付くことが多いのがマラソン、サッカー、テニス、柔道、レスリング、バレーボールあたり。後ろは陸上、競泳、バドミントン、卓球、スキー、スケートなど。「マラソン女子」「女子陸上」とは言わない。

 前に付く競技は、注目され始めた当時に「女だてらに」「男勝り」という目で見られたからだろうか。格闘技や身体的負担が大きいマラソン、サッカー、女子の歴史が古いテニスはそうかもしれない。「女社長」「女流◯◯」にも通じる。

 性別が書いていなければどちらか一方のことだと、暗黙の了解になっている競技もある。野球、サッカー、相撲は男子。アーティスティックスイミングや新体操は女子。メジャー度や歴史の男女差によるもので、差別だと怒る人もあまり見ない。

 結局、前か後かの明確な違いや理由を見いだすのは難しそうだ。言葉は法則や規則だけで使い方が決まるものではなく、慣れや感覚、日本語ならではのあいまいさもあっての混在なのだろう。

 記録記事で「テニス女子シングルス」などと性別が後になるのは、表記を競技名>種目名として競技間の整合性を取る必要やデジタル処理上の必然性からで、事情が違う。

 最近は「サッカー女子」「バレー女子」も見聞きするが、「バレー女子」から一瞬「カープ女子」を連想し、石川祐希を追いかけるファンのことかと思うのは考え過ぎか。過去に何度もブームが起きた競技だから、熱狂的ファンは今に始まったことではないのだが、見慣れない言葉は違和感というストレスを読者に与えかねない。文章記事はあえて一方にそろえなくてもいいのでは。(時事通信社・若林哲治)