【五輪の深層】最高のビジネスチャンス、スポーツメーカーも戦う…ソウルから支え続け32年の組織委参与・上治丈太郎氏

引用元:スポーツ報知
【五輪の深層】最高のビジネスチャンス、スポーツメーカーも戦う…ソウルから支え続け32年の組織委参与・上治丈太郎氏

 スポーツの祭典である五輪は、各業界にとって最新の技術力、商品力をお披露目する機会であり、最高のビジネスチャンスとして戦う場でもある。とりわけ、スポーツメーカーはアスリートを通して最新の商品を全てのメディアに露出させ、その後の市場で優位性を揺るぎないものとする。五輪でのパフォーマンスは商品の優秀性の最高のエビデンスにもなる。

 毎回、夏季五輪では各国・地域のNOC(五輪委員会)が30~40、各国・地域のNF(国内競技連盟)が50~60、出場選手1500人以上が日本のスポーツメーカーのアイテムを使用する。日本ではミズノ、アシックス、デサントなど。欧米ではアディダス、ナイキ、プーマ、アンダーアーマー。このところ勢力を拡大している中国のリーニン(李寧)、アンタ(安踏)、「361°」。そして各競技の専門メーカーであるバドミントンのヨネックス、野球のSSK。これらが各競技で必要な備品、用器具を納入する。

 特にIF(国際競技連盟)が採用する用器具は重要だ。柔道の畳は厚みはどのメーカーも一定だが、表面の畳み目の深さが、特に立ち技を得意とする日本選手に大きく影響する。体操の鉄棒、つり輪などもメーカーにより微妙にたわみが違う。その個性も勝敗を左右する。

 IOCは競技会場を「クリーン・ベニュー」としてさまざまな規定を設ける。競技ウェア、表彰台ウェアなど、全てのアイテムにもルールがある。代表的な例ではウェア類は1アイテムにつき1か所に製造ロゴを認めており、最大で30平方センチ以内(例えば5センチ×6センチ)。競技会場に持ち込むバッグ、サングラス、キャップ、サポーターなど全てにサイズ規定があり、規定外の商品は入場前の審査でいろいろなマスキングを施される。

 メーカーはどこの国のどんな競技のチーム、選手にメダルの可能性があるか、どのチーム、選手と契約すれば自社のブランド訴求を進めるのに効率がいいか戦略を立てる。私自身の経験では、キューバの野球チームやバレーチーム、中国のバレーチーム、東欧のチームなど比較的、社会主義国のチームは国が一括して契約交渉するので費用対効果も高く、やりやすかったが、今はチーム、選手単位で外貨を稼ぐ時代になり大きく様変わりした。

 各国がナショナルトレーニングセンターなどを設立し、国を挙げて、スポーツの持つ力で子供たちに夢や希望を与え、ナショナリティーを構築する時代である。五輪4大会の陸上で9個の金メダルを獲得し、特に走り幅跳びは4連覇したカール・ルイスは最も記憶に残ったアスリートだった。同じく陸上ではウサイン・ボルト=プーマと思われるくらい、全世界の人々の目に焼き付いた。来年の東京ではどんなアスリートが、どこのメーカーが最も印象を残すのか、もう一つの五輪として楽しみである。報知新聞社