<アスリート交差点2020>記憶に残るスイマーへ 異例シーズン冷静に=競泳・渡辺一平

引用元:毎日新聞

 8月に半年ぶりのレースに出場して以降、気持ちにスイッチが入り本腰を入れて強化に取り組めています。前回のコラムでも明らかにしたように、3月に東京オリンピック延期や代表選考会を兼ねた日本選手権の中止が決まった当初、泳ぐ意味を見いだせなくなっていました。

 8月の早慶戦には早稲田大水泳部OBとしてオープン参加する機会がありました。大会は無観客で実施され、参加人数を減らす方向にあるなか、泳ぐ機会を頂けたことに感謝しています。練習を再開していたとしても、目指す大会がなければモチベーションを高く保つのは難しいと実感しました。大会を重ねるなかで強化の課題を把握でき、レースでしか味わえない緊張感も経験することができました。

 今年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で大会スケジュールが大幅に変更されました。異例のシーズンとなったことは自分ではどうしようもないことで、前向きに試行錯誤を続けています。

 9月に埼玉県川口市の屋外プールであった競技会ではメイン種目の男子200メートル平泳ぎに出場しました。泳ぎの感覚は決して悪くありませんでした。タイムも設定していた2分9秒台をマークできましたが、最後の50メートルで力不足を感じました。

 そこからは早大で1500メートル自由形などを専門とする長距離チームに加えてもらいました。新たな取り組みで、一切の甘えを断ち切り、きつい練習を自らに課しました。1日に1万5000メートルを泳ぐこともあり、1カ月間続けたことで持久力の不安は解消されていきました。

 さらに学生と練習することで素直に水泳が楽しいと思えています。練習であっても駆け引きがあり、負けてはいけない。先輩としての意地が生まれ、励みになっています。

 新型コロナで2カ月間、プールから離れていたブランクを埋める成果は徐々に表れています。18日の25メートルプールで争う日本短水路選手権男子200メートル平泳ぎで2分2秒91の自己新記録をマーク。終盤でバテる感覚はなく、優勝できました。例年ならシーズン初めの時期ですが、今年は既にこれだけ泳げているとポジティブに考えられています。

 コロナ下での新たな大会様式にも慣れてきました。密集を避け、レース直前までマスクを着用します。負担に思うことはありません。大規模な大会では各地から選手が集まるため、予防を徹底することで安心してレースに臨むことができています。

 12月には中止とされた日本選手権の開催が予定されています。男子200メートル平泳ぎの2連覇が懸かりますが、いかにして来年4月の五輪代表選考会や本番の東京五輪につなげられるかが重要になります。異例のシーズンだからこそ、焦ることなく冷静に自らを見つめながら歩んでいきます。(あすはバドミントン・奥原希望です)

 ◇わたなべ・いっぺい

 大分県出身。佐伯鶴城高3年時の2014年ユース五輪男子200㍍平泳ぎで金メダル。16年リオデジャネイロ五輪で6位入賞。17年、19年世界選手権銅メダル。トヨタ自動車所属。23歳。