<Passion>教え子との「同時金メダル」を目指し奮闘 パラバドミントン・村山浩

引用元:毎日新聞

 東京パラリンピックで正式競技に採用されたバドミントン。車いすクラスの実力者、村山浩(46)=SMBCグリーンサービス=は指導者としての顔も持つ。目標は、28日で開幕300日前となる本番で、「娘」との同時金メダルだ。【真下信幸】

 競技体験会で初めて打ったシャトルの勢いを見て、「絶対に強くなる」と直感した女子選手がいる。2019年世界選手権の女子車いすWH1クラスを制した里見紗李奈(22)=NTT都市開発=だ。17年の体験会で、その日のうちに「パラリンピックを目指せる」「一緒に国際大会に行こう」と声をかけた。練習に参加するようになった里見に競技用車いすの操縦方法や試合での駆け引きなどを指導し、互いを「娘のよう」「父のよう」と尊敬し合っている。めきめきと実力を伸ばした里見は、今では東京大会の「金メダル候補」と呼ばれるまでに成長した。

 自身は34歳だった08年11月、自己免疫の異常により神経細胞が破壊される「慢性炎症性脱髄性多発神経炎」という国指定の難病にかかり、車いす生活となった。

 発症して数年後、妻と2人の息子がバドミントンクラブに通っていたことから、「自分も一緒に体を動かして遊びたい」とラケットを握るようになった。バドミントンは初心者で、当初はシャトルを空振りするなど、打ち返すのもやっとだったが、その難しさが好奇心に火を付けた。「思っていたより全然うまくできず、悔しかった。もっとやってみたい」と、千葉市の自宅近くで活動する障害者バドミントンクラブにも通うようになった。その後は高校時代にやり投げで培った肩の力を生かしたショットを軸に頭角を現し、16年には車いすWH1クラスで日本人初となる国際大会での優勝を果たした。

 しかし、実力が上がると同時に悩まされたのが練習環境だ。競技人口が少なく、練習相手を求めて県外に出向くことも多々あったという。「高いレベルで打ち合える仲間を集めたい」という思いから、14年に車いすに特化したクラブ「パシフィック」を発足。加えて、「障害者スポーツの楽しさや素晴らしさを多くの人に知ってほしい」と、地元の自治体やNPOなどと協力し、競技体験会を実施したり、講演や出前授業では積極的に講師を引き受けたりしている。そんな中で、パシフィックへ見学に訪れたのが里見だった。

 里見の活躍に「気持ちの強さなど選手として参考になる部分がたくさんある」と刺激を受ける村山も、東京大会の選考レースに関わる国際ランキングではダブルスで3位(10月26日現在)。祭典への出場は濃厚で、メダルも期待できる位置につける。1年の延期が決まってからの約半年間はウエートトレーニングと減量に励み、力強さと素早さに磨きをかけている。「目標はシングルスとダブルスで両方金メダル。そのためにも、(延期した)1年間を有効に使いたい」。その視線は、「娘」との同時金という偉業を見据えている。

 ◇むらやま・ひろし

 1974年生まれ、千葉県出身。パラバドミントンでは車いすWH1クラスに属し、19年日本選手権シングルス準優勝、ダブルス優勝。世界ランキングはシングルスで10位、ダブルスで3位(いずれも10月26日現在)。