「Simple is the best」 道を究める弓道家が高校生に伝えたアドバイス

引用元:THE ANSWER
「Simple is the best」 道を究める弓道家が高校生に伝えたアドバイス

 弓道・教士八段で第43回全日本弓道選手権大会の覇者でもある増渕敦人さんが、10月24日に配信された「オンラインエール授業」に登場した。「インハイ.tv」と全国高体連が「明日へのエールプロジェクト」の一環として展開するこの企画。増渕さんはインターハイ中止という経験から前を向く全国の高校弓道部を対象に授業を行い、「Simple is the best」の精神で、自然体かつ基本に忠実であることの大切さを説いた。

 増渕さんが登場した「オンラインエール授業」はインターハイ実施30競技の部活に励む高校生をトップ選手らが激励し、「いまとこれから」を話し合おうという企画。ボクシングの村田諒太、バドミントンの福島由紀と廣田彩花、バレーボールの大山加奈さん、サッカーの仲川輝人、佐々木則夫さんら、現役、OBのアスリートが各部活の生徒たちを対象に講師を務めてきた。

 第36回の講師は、弓道家の増渕敦人さん。1992年、第43回全日本弓道選手権大会で史上最年少となる29歳で優勝を果たした増渕さんは、2010年には第1回世界弓道大会に日本代表として出場。地元・栃木県で高校教師を務めながら、弓の道を究めると鍛錬を続けると同時に、生徒たちに弓を引く楽しさを伝えている。また、著書やDVDなどを通じて自身の経験や知識を共有し、広く弓道の普及活動に努めてきた。

 現在は栃木県立小山北桜高校で教頭を務める増渕さんが弓道を始めたのは、中学2年生の頃。弓道が盛んな栃木県では、現在も30校を超える中学に弓道部があるという。

 鹿沼高校ではインターハイに出場。また、「3年生の時(1980年)に栃木で初めて国体が開催されるということで、絶対に県代表になるんだ、と“部活動命”という気持ちで毎日練習に励んでいました」と振り返る。その努力が実を結び、県代表として国体に出場すると、近的2位、遠的4位の好成績を飾った。

 大学時代には全日本学生弓道選手権大会で優勝を飾るなど、常に世代のトップを歩み続け、現在は教士八段を持つ増渕さんだが、大きなターニングポイントとなったのは「高校1年生の時でした」と明かす。

「自分は弓道経験者だということで、高校入学時にはすでに初段を持っていました。その夏、3年生の先輩方がインターハイに出場するということで一生懸命練習をしていたところに、たまたまいらしたOBの方が調子の悪い3年生を指導し始めたんです。

 その時に私も一緒に練習をしていまして、1年生でしたが的中は5割くらいあったと思います。するとOBの方が私の方を指差して『あいつを見ろ。あんなに下手くそだけど、毎回同じように引くから当たるんだよ』と仰有ったんですね。OBの方は3年生を励まそうと、そういう言い方をしたのだと思いますが、下手と言われた自分はカッとしてしまいました」

 だが、少し時間を置いて考えてみると「周りから見て下手と言われるものは、下手なんです」と増渕さん。これをきっかけに「弓道教本を読んで、上手くて的に当たる人になろうと決めました」と、的中だけではなく基本に忠実であることを決意したという。

 先輩の何気ない一言がターニングポイントとなり、弓道家としてはもちろん、指導者としても日本屈指の存在となる成長に繋がった。今の高校生たちにとっても、日常の一コマの中に飛躍や成長のきっかけが転がっているのかもしれない。次ページは:「いろいろやってみて結局、余計なことはしない。これが一番いいんだな、という結論に達した」

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