北口榛花、9000キロ離れたコーチと二人三脚 日本女子投てき初の五輪メダルに挑む

引用元:時事通信
北口榛花、9000キロ離れたコーチと二人三脚 日本女子投てき初の五輪メダルに挑む

 東京からの距離は約9000キロ。陸上女子やり投げの日本記録保持者、北口榛花(22)=JAL=は遠く離れたチェコのコーチに師事している。行動力と創意工夫のコミュニケーション法でさまざまな「壁」を乗り越え、厚い信頼関係を築いた。投てき種目で日本女子初となる五輪のメダル獲得を目指し、二人三脚で歩んでいる。

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 二人の出会いは2018年11月。フィンランドで行われたやり投げの国際講習会に参加し、チェコのジュニア世代で代表コーチを務めるセケラック氏に「君のことを知っているよ」と声を掛けられた。16年春に日大入学後、右肘の故障や専門コーチが不在になったこともあって伸び悩んでいた北口。「実はコーチがいない」と打ち明けると、「東京五輪でメダルを取りたいんじゃないの」と心配された。殻を破るチャンスだと思い、意を決して「チェコに行ってもいいですか」と尋ねると、「ぜひ」と快諾してくれた。

 「今までは誰かが支えてくれるのを待っていた。でも、それでは思うようにいかない。自分からアプローチすることが大事だと気付いた」。すぐにメールを送って連絡を取り、19年2月から1カ月間、単身でチェコに渡った。世界記録保持者のバルボラ・シュポタコバら数多くのトップ選手を輩出する「やり投げ大国」での武者修行が、競技人生の転機となる。

 セケラック氏の指導の下、課題だった下半身の使い方を改善。助走スピードが向上し、強みである腕の振り切りがより生かされる投げ方を身に付けた。19年5月の木南道孝記念で64メートル36の日本新記録を樹立。夏から再びチェコで3カ月近い合宿を行って臨んだ秋の世界選手権(ドーハ)は惜しくも決勝進出を逃したが、10月の北九州カーニバルでリオデジャネイロ五輪銀メダル相当の66メートル00まで自己記録を伸ばし、大きく飛躍した。 北口榛花、9000キロ離れたコーチと二人三脚 日本女子投てき初の五輪メダルに挑む 北九州陸上カーニバルで自らの日本記録を更新した女子やり投げの北口榛花(日大)=2019年10月27日、北九州市立本城陸上競技場

言葉の壁越える深い絆
 今年は2月からチェコで練習していたが、欧州で新型コロナウイルスの感染が急拡大。3月中旬に緊急帰国し、現在は自宅での体幹トレーニングや近所でのランニングなどで汗を流している。やりを投げられず、「もどかしい気持ちはある」。試合の日程も決まらず、「いつからシーズンが始まるのか知りたい」というのが本音だが、先を見過ぎず、できることに集中して取り組んでいる。

 セケラック氏とは離れていても、深くつながっている。スマートフォンでチャット機能のあるアプリを使って連絡を取り合い、コロナ禍でもやりとりは「何も変わらない」と笑う。セケラック氏から送られてきた練習メニューをこなし、翻訳アプリを駆使して英語に変換して報告。練習の様子はできる限り動画で撮影し、動きの感覚や意識したポイントなど細部まで伝えるように心がける。

 「コーチから言われたことに対して『はい』ではなく、よく話し合う。言いたいことは言うようにしていて、自分の考えや思っていることをしっかり伝える」。時差があるため、寝る直前の夜中に返信が来ることはしばしば。言語も異なる。それでも、深い絆で結ばれているから苦ではない。「大変な面はあるけど、すごく面倒を見てくれる。昨年、しっかり結果も残せた。精神的な支えになっているし、練習をこなして自信もついている。すごくいい関係」