出場辞退を決断した選手たち「空白を埋めるのは難しい」

出場辞退を決断した選手たち「空白を埋めるのは難しい」

 第102回全国高校野球選手権大会の中止に伴い開かれる岐阜県の独自大会(県高校野球連盟主催、朝日新聞社など後援)が11日、開幕する。今大会では、県高野連に加盟する68校のうち4校が出場辞退を申し出た。新型コロナウイルスの影響や部員不足などで苦渋の決断を迫られたチーム事情とは――。

【写真】練習の合間に談笑する東濃の安江君(左)と前田君=2020年7月1日午後5時16分、御嵩町御嵩、松永佳伸撮影

 今月3日、郡上北の体育館で、ユニホーム姿の3年生3人が軟らかいボールでノックを受けたり、バドミントンのシャトルを使って打撃練習をしたりして汗を流した。

 部員は3年生3人だけ。昨夏は山県、羽島との連合チームで出場し、秋以降は東濃を加えた4校でチームをつくり、練習を積んできた。各校は今春の新入部員に期待し、夏の単独出場をめざしてきた。

 しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で、3月上旬に学校は臨時休校。部活もできなくなった。

 今春、部長から就任した児玉智紀監督(23)の気がかりは、3年生のことだ。何とか連合チームで最後の夏を迎えさせたかった。県教育委員会が示した部活動ガイドラインでは、6月15日に練習を再開できるが、対外試合や他校との合同練習などは27日まで禁止となった。連合チームで練習ができる時間は、限られていた。

 主将の和田瑛夢(えいむ)君(17)は、双子の弟紘夢(ひろむ)君(17)と原礼次君(17)と話し合った。練習不足は否めない。和田君は「試合に出たい気持ちはあるが、空白の4カ月を埋めるのは難しいと思った」。出場辞退を決めた。

 「自分たちの野球ができない以上、お世話になった人たちに感謝の気持ちは伝わらない。みんなで決めたことなので悔いはありません」と唇をかみしめた。

 瑛夢君は卒業後も社会人で野球を続けるつもりだ。「野球はチームスポーツ。一丸になって戦う素晴らしさがある」

 東濃は6月15日、2年生2人、1年生1人の計3人で練習を再開した。

 堤大樹監督(37)は「先のことを考えたら連合チームで試合をしたほうがいい」と考えていた。だが、3人が下した結論は出場辞退だった。

 休校期間中も自主練習に励んできた2年生の主将、安江太希(たいき)君(16)は「東濃として出たい思いが強かった」と話す。2年生の前田蒼太君(16)は前を向いた。「チーム一丸となって強豪校に勝つのが目標。来年は部員を増やして試合に出たい」

 今年就任した不破の田下雄基監督(30)は6月中旬、2年生部員5人に出場辞退を伝えた。「新型コロナウイルスの影響で準備期間が短すぎる。試合ができるレベルに達していない」。3年生の部員がいなかったことも、判断を後押しした。

 その後、1年生4人の入部が決まり、秋以降は単独チームで再出発する。田下監督は「じっくり練習をし、チームの態勢を整える時間ができた」と話す。

 岐阜高専は、新型コロナウイルスの感染予防のため、遠隔授業を続けている。部活動の再開は夏休みが始まる8月8日以降になる見込みだ。

 部員15人のうち3年生8人は、このまま部活動を引退する。

 麻草(まぐさ)淳部長(50)は悔しさをにじませる。「選手たちはがっかりしていた。最後まで出場するつもりでいたと思う。新型コロナウイルスの感染リスクを回避できない以上、やむを得ない」(松永佳伸)朝日新聞社