<#最後の1年>高校生がつづった、それぞれの「#最後の1年」 反響特集(上)

引用元:毎日新聞
<#最後の1年>高校生がつづった、それぞれの「#最後の1年」 反響特集(上)

 新型コロナウイルスの感染拡大に揺れる学生スポーツ界を描く毎日新聞の連載企画「#最後の1年」が反響を呼んでいます。野球やラグビー、視覚障害者向けのフロアバレーボールなどさまざまな競技に取り組む小中高、特別支援学校の最高学年の選手たちを主人公に、大会中止に追い込まれた苦悩、先行き不透明な状況への戸惑い、逆境の中でも光を模索する確かな歩み――を伝えてきました。この企画は高校の授業の題材になったほか、文化系の部活動に励む生徒や広く保護者の方からも取材班への投稿が相次いでいます。5月下旬の掲載開始から約3カ月。反響をまとめました。

 ◇中京大中京高が論文対策で題材に

 「#最後の1年」を授業の題材として活用したのは、名古屋市の中京大中京高。日ごろから新聞記事を授業に活用している国語科の坂元路子教諭(47)が着目し、コロナの影響に伴う休校が明けた6月、3年生の論文対策の授業で取り入れた。配られた連載記事を読んだ生徒36人が部活動や学校、家庭での生活など自身の「最後の1年」を400~600字にまとめた。

 坂元教諭は「この年代ならではの思いを残すべきだと考えた。生徒たちが抱いている思いを私自身が読みたかった」と狙いを語る。教諭は不安や不満ばかりが並ぶと想像していたが、現状を受け止め、前に進もうとする力強さが印象的だったという。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)世代の生徒たちを「葛藤などを言葉にして発信するのが上手だ」と感じており、「大人が考えるよりも、高校生には生きる力があるんだと思った」と総括した。

 2人の生徒に文章に込めた思いを取材した。【長宗拓弥】

 ◇「日常の大切さ、見つめ直せた」

 ◇バドミントン部3年 相坂捺寧(あいさか・なつね)さん(18)

 目指した全国高校総合体育大会の中止、高まる受験勉強への不安、そして祖父との別れ――。バドミントン部3年の相坂捺寧(あいさかなつね)さん(18)は新型コロナウイルスに日常を奪われたやりきれなさをつづった。ただ、それだけではない。「新しく得たものはそれ以上にある」と展開する文章は「悔いが残らないように過ごしたい気持ちになれたので、前向きなことを書きたかった」と振り返る。

 2月末から休校となり、4月には史上初めて高校総体の中止が決まった。「チームの仲間と切磋琢磨(せっさたくま)した日々も突如打ち切られてしまった」との無念さに襲われたことを記した。受験勉強に気持ちを切り替えようとしたが「何に対してもやりきれない思いばかりだった」のも本心だ。

 最もつらかったのは、そんな中で迎えた祖父との別れだった。がんで入院していたが3月末に亡くなった。お見舞いに訪れても感染対策で面会は禁じられ、最期に立ち会うこともかなわなかった。「また会えると思っていたのに」。涙が止まらず、冷たくなって自宅に戻った祖父に何と別れの言葉をかけたかも思い出せない。

 6月に授業が再開し、沈んだ心を癒やしてくれたのは友人たちだった。「友達に会った時、ただそれだけなのに私はとても幸せを感じた」と表現した。

 思えば「当たり前にできたことが当たり前にできなかった期間、私にとって失ったものは多くあった」。「しかし」と続けたのが「新しく得たものはそれ以上にある」の一節だ。

 祖父の入院生活を通じ、言語聴覚士になる夢を見つけた。病気や交通事故などにより、言語障害や聴覚障害が出た患者らのコミュニケーションを支援する仕事だ。祖父のリハビリに付き添い、食事や発声など「日常を支えてくれた」その存在を知り、自らもなりたいと思った。

 文章の結びには試練の中でもがいて得たたくましさが宿る。「人の命や日常の大切さ、自分の将来に対しても見つめ直すことができた。この思いを忘れずに過去ではなく、前を見てこれからも頑張りたいと思う」

 ◇「仲間との活動が私の支えに」

 ◇ダンス部 奥村美咲さん(17)

 約100人の大所帯のダンス部で副部長を務める奥村美咲さん(17)は新型コロナウイルスの影響で活動が制限される中、「なぜ一人でもできるダンスにグループが作られたのか」と素朴な疑問が頭に浮かんだ。自身の心を見つめ、答えを導く形で文章をまとめた。

 感染拡大でイベントや大会が相次いで中止となり、夏の日本高校ダンス部選手権への出場も取りやめとなった。「ダンスは披露して、見てもらうことが目的。(その場が失われれば)自分たちの中では何もせずに終わるのと一緒」との悔しさから「今まで積んできた努力をどこに向ければいいのか、日々複雑な思いを抱えている」と書いた。

 ただ感染拡大に伴う休校の間の3カ月も練習を重ねた。部員の自宅をオンライン会議システム「Zoom(ズーム)」でつないで踊った。だが本心は「つまんなかった」。映像では目配せができず、呼吸も合わない。「当たり前にスタジオに行き、毎日のように顔を合わせていた生活がたった数カ月なくなっただけで、私たちの心は乱れていった」とも打ち明けた。

 そんな生活の中で疑問は浮かんできたという。

 「なぜ一人でもできるダンスにグループが作られたのか。なぜスポーツにチームという存在が生まれたのか」

 休校期間を終え、再び一緒に踊り始めると、そこに答えはあった。衝突することも多かった仲間だが、誰もが集まって共に踊ることを心から求めていた。だから自らの心の動きを連ねた文章をこう結んだ。

 「ただ、仲間と活動することが楽しく、それが私の支えになっているという事実だけであり、この先もこれ以外の答えを見つけることはできないと思う」

 最後にステージが予定されていた9月の文化祭も中止が発表された。ただ授業で読んだ「#最後の1年」の記事では、コロナの中でもがき、光を探す全国各地の生徒たちが紹介されていた。「つらいのは自分たちだけじゃないんだって勇気付けられた」という。何より踊る仲間がそばにいる、そのこと自体の大切さに気づけた今は「暗い気持ちは一切ない」と力強く語る。

 ◇文章紹介(抜粋)

 ◇高橋宏斗さん

 硬式野球部エース。出場を決めていた春のセンバツに続き、夏の甲子園も中止になった。

 「その時はとても悔しく何も考えられませんでした。休校となり、練習もできなくなりました。チームメートに会えない日々が約2カ月間あり、当たり前の日常への感謝の気持ちと、仲間の大切さに気づかされました。甲子園中止で、大切なことを学ぶことができたと思います」

 ◇兵藤実優さん

 吹奏楽部。部長として臨むはずのコンクールも定期演奏会も野球部の応援も中止になった。

 「すごく悔しかったです。皆そろって演奏し、それを誰かに聴いてもらえることは素晴らしいことだと思います。それを次の代の部員に伝えていくことが私の仕事なのではないかと思います」

 ◇福島理咲子さん

 休校に伴って自宅で過ごす時間が増え、母親との会話が増えた。

 「母は私が思うよりも弱い人だと分かった。いつも毅然(きぜん)と振る舞っているように見えた母は誰よりも助けてほしいと願っていたのだと18年も一緒にいて初めて知った。母の手伝いをできる限りするようになったことで、心なしか母の笑顔も増えた気がする。コロナ前よりも家はさらに居心地のよい場所になった」

 ◇近藤もえさん

 休校中、テレビやインターネットを通じて、幅広い世代の考えに触れる機会が増えた。

 「多くの人がいる社会で生きているという実感が生まれ、社会に向けて意見を持たなければいけないと思った。これまでは人の意見に流されていて、やりたいことは何か、どんな人間になりたいか、分かっていないことに気づいた。自分自身を知ることはこんなにも大事だったと学べてよかった」